間引き


 灰色の壁で仕切られた箱のような部屋だった。そこに、黒いスーツを着た同年代の若者が、5人、6人、押し込められている。室内は限界まで張り詰めた緊張で息苦しく、しかし、息をすることなどもはやどうでもいいというような気持ちで、若者たちは自分の番を待っていた。

 竹中 悟(たけなか さとる)は、大学ノートを膝に広げ、時折カタカタ震える膝や肘を力で抑えつけつつ、隣の学生をチラチラと横眼で見ていた。右隣に居る、ひょろっとしたメガネの学生は、野菜で例えるとしたら間違いなく誰もが「もやし」と答えるような、薄い印象の人間だった。彼は、体のあらゆる箇所を緊張で切り刻まれるようなこの瞬間も、ただじっと目の前の壁を凝視している。まるで、視線で壁に穴を空けようとしているかのようだ。
その“もやし”の彼の青白い頬にうっすらと汗が浮いているのを思いがけず見つけて、悟はふっと笑った。どこか、勝ったような気持ちにだってなった。
隣の奴も緊張している。俺だけじゃない、と。

がちゃり、と無機質な音が鉄の部屋に響いた。
誰もが、一瞬びくりと肩を震わせ、しかしそれを表に出さないように不自然な仕草でそれを誤魔化そうとした。

「3番の方、どうぞ」

はい、と返事が聞こえ、黒のタイトスカートとストッキングを履いた足が目の前を通り過ぎていく。
悟は、ふっと息を吐いた。

 これが、最終面接だった。
悟が志望している会社の中で、最もまとも、という順で並べて、上から6番目。それ以上の1番から5番は、書類選考、適性検査、面接、のどれかで落ちた。第一志望の証券会社に至っては、インターネット上で「貴方は短くて有意義な人生より、長くて平らな人生を望みますか」等の質問に、「はい」か「いいえ」で答える性格診断で落とされた。
学校で受けてきたテストには、どこが悪かったのか、赤字で×がつけてあった。その部分を復習して直せば、問題はなかった。大学のレポートは、教授の好きそうな文章を書けば、大体が通った。過去の問題の傾向は、部活の先輩に聞けばおおよそ検討のつくことだった。
「君たちの、成績や数値では測れないものを見たい」
と常々口にしていた教授の採点方式は、“成績では測れないもの”が見えているのかいないのかよく分からないものだったが、とりあえず付け焼刃の知識と教授への賛美で合格点をもらえたのだから、そうでもなかったのだろう。
悟は、目の前の大学ノートの空白に、講義中の教授の顔を思い浮かべた。

「成績で測れないものなんて、あってたまるか」
悟は心の中で、教授の顔に唾を吐いた。
「すべての事に数値と順位がつかなきゃ、社会が上手く回るわけがない」

悟は、一般的に見て「出来ている学生」だった。
バイト先の後輩は何かあると彼を頼るし、3年の時は部長をも務めたソフトテニス部の後輩もまた、“竹中センパイ”を尊敬していると言った。後輩たちの誰もがそう言った。同年代の人間は、ふざけて悟を玩具にして遊ぶことの多いような人間たちだったが、それでも「悟は面白いな」と常々言っていた。「お前なら大丈夫だよ」と、誰もが言う。
悟自身も、自分の成功の可能性を全く疑っていなかった。自分は、上流の川を悠々と泳いでいる。“出来ていなく”は、ないのだ。

悟は顔をあげて、待機室の入り口を見た。灰色の扉が、まるでコンクリートの巨大な壁のように立ちふさがっている。
「出来ないはずがない」
悟はぐっと顎をひいた。
「これまで通り、良い成績を出せる」
ノートの上で握りしめた指の先が白くなり、感覚が無くなるまで、悟は両手を握り続けた。

 2週間が経ち、悟は、企業から、これからのご検討をお祈りされた。その紙を破り捨て、自室の床に寝転ぶ。天井がぼやけ、ぐるぐると回った。世界のすべてを切り捨てたい気分に陥ったが、すぐに右手の拳を床に振り下ろした。ぐしゃり、と通知の紙が折れる。
「悪くないはずだ」
隣の住人の目さえなければ、絶叫していた。代わりに、喉の奥から押し殺すような声で、悟はそれを何度も呟いた。
悪くないはずだ。悪くないはずだ。悪くない。
学食で友人が言っていた。
「高性能な人間を見ると、逆に面接官が嫉妬することがあるらしい」
面接官のニーズや相性と、悟自身のベクトルが合わなかっただけなのだ。悟は、歯を食いしばって、右手の拳の下にある紙をさらにぐちゃぐちゃとかき混ぜた。紙は悲鳴をあげながら、されるがまま屑となった。

悟は起き上がり、のろのろと実家へ電話をかけた。地元で行われる選考会が、来週に控えていた。この第6志望の企業に受かると確信していた頃は、目の端にも留めるだけの、興味のない業界だった。
「ああ、うん、…明後日帰るから。うん…」
何も詳しい事情を聴こうとしない母親の声が、逆に彼の精神をいたぶるようだった。

 5月の後半だというのに、まるで真夏のような気温だった。
悟の実家は、最寄りの駅からどれだけ早く歩いても20分はかかる場所にあった。しかもその途中に、森林と激流に挟まれた山道がある。急な上り坂で、地元の人間以外殆ど使わない道だ。
「仮にこっちで受かったとしても、絶対駅か会社の近くに部屋を借りよう」
悟はそう呟き、まだまだ続く山道を見た。時折鞄を持ち直し、上着を肩にかけながら道を歩く悟の肌に、木々の影が斑の模様を描いた。

靴の底がジュッと音を立てて溶けそうなアスファルトの上を歩き、やっと、といった心境で、悟は実家の扉の前までたどり着いた。3方向を山に囲まれたような、絵に描いた田舎の一軒家。かろうじて舗装された道路の脇には、深緑の野菜畑が広がっている。時折聞こえる奇妙な鳥の声は、田舎でしか聞くことのない生き物のものだった。

引き戸を開けようとして、ふと手を止める。庭の方で、水をまく音が聞こえた。それに、湿った土や草の香り。
悟は荷物を持ったまま、左側の小道から庭先に回り込んだ。逆さに置かれたバケツ、何かを飼っていた水槽、ひびの入った植木鉢などが、足元に晒されている。それらを踏まないように、荷物を壁にひっかけないように、歩く。
「ああ、おかえり」
振り返った祖母の体は、正月に帰った時より疲れて痩せたようだった。それでも目や顔の表情だけは生き生きとしていて、70代とは思えない、光のようなもので満ちている。その光に気圧された気分で、悟は頷いた。
「ただいま」

祖母が大事に世話をしている庭は、一見あらゆる草花が寄せられた雑多なものにしか見えなかったが、雑多と混沌の美の合間で絶妙なバランスがとられており、時期がくれば色とりどりの花が互いを引き立てる、完成された形になるのだった。
外堀を囲うように植えられた背の高い果物の木、その手前に置かれた木製の棚、等間隔で置かれた鉢植え、足元にはいくつものプランター、頑固な岩に沿って植えられた背の低いミツバは、時折食卓に並べられることもある。
「荷物、おいといで」
「ああ」

2階の自室に、荷物を置く。昔は両手にいっぱいだった学習机が、随分小さく、脆く見えた。机の引き出しを開くと、中学や高校の時の受験対策の本がわらわらと出てくる。
「…」
悟は黙ってそれを閉めた。そして振り払うように部屋の扉を閉め、1階の居間に向かった。
居間には母が居て、昼食のそうめんの準備をしていた。透明の器に、だしをトロトロと分けている。
「就活、みぃんな大変なんやってねえ」
母が、おずおずと言った。悟は無言で頷き、畳にあぐらをかいた。
「隣んとこのユウキくんも、なんや色々大きいとこ受けたんやけど、どれもあかんかったんやって」
悟は無言で頷き続ける。傍らのテレビが、“栄養不足を補う夏野菜特集”を声高に叫んでいる。母はやはりおずおずと、悟の様子を窺うように続けた。
「テレビのニュースでも、全然景気よくならん言うとるしなぁ。…悟だけが上手くいかんのとちゃうよ?」
「分かってる」
悟は、母から向けられる目線を否定するように、強く言った。
「分かってる、そんなの、分かってる。…でも、俺は…」
俺は、やれるから。
それを強い口調で言う自信は、この数日の間に、どこかで擦り切れてしまったようだった。そうめんの上に載っていた氷が溶けて、皿に当たってからんと音をたてた。
「お祖母ちゃん、呼んでくる」
母がそう言って立ち上がり、庭の方へと歩いて行った。

 選考会は明日だった。適性検査と面接が同じ日にある。緊張の瞬間は目前だった。
そうめんを食べ終えてから暫くの間、悟は涼しい居間で庭に続く窓を開けて、試験対策の勉強をしていた。しかし、あらゆる感情や思いが渦巻き、やがてどの言葉も頭に入らなくなってきた。それでも手だけは動かしておこうと暫くもがいたものの、数分後、これ以上何をどうしても無駄だ、と、ペンを投げた。
だらり、と畳の上に横になり、上下反転した景色を見る。風が横向きに吹いている様子が、庭の木のしなり具合で分かった。此処は、空気が冷たくて澄んでいる。ただ寝転がっているだけで、快適に時間を過ごせる。
しかし、胸の底にある緊張感が胃をキリキリ言わせ、不安が脳をかじり、部屋の隅から目に見えない何かが迫ってくるような圧迫感は、どこでどの体勢で寝転んでいても、消えてくれるものではなかった。

 ふと、目の端に動くものがあった。庭の片隅で、もぞもぞと動く背中。
悟は畳に手を付き、ゆっくり起き上がった。祖母が、食後も変わらず庭に居た。何という理由もなく立ち上がり、庭へ下りる。
水を撒いた後なのか、庭には独特の湿気が満ちていた。祖母は庭の右端で、地面に置いたプランターの傍にうずくまり、黙々と作業をしていた。サンダルをつっかけて、祖母の背中に近づく。
「…ばあちゃん」
「おっ?」
祖母はたった今悟に気づいた様子で、驚いた表情を見せた。
「おーお、お勉強終わったんかね」
「うーん…」
悟は、目線をあちらこちらにやった。居間の方の屋根に、小さな蜂の巣が出来ている。
「…んー、まぁ、そこそこ」
「えらいねぇ」
祖母はニコニコと頷いた。手元のビニール袋がかさりと音を立てる。
「ばあちゃん、何してんの?」
「あん? 庭の手入れだよぉ」
「うん、それは分かるんだけど…」
悟は後頭部をかいた。祖母はしゃがんだまま横に1歩ずれ、悟にプランターを見せた。
「間引きさね」
「間引き…」

茶色いプラスチック製のプランターの表面には、四葉の植物がぽこぽこと顔を出している。
「前川さんとこからもらった種がなぁ、この時期あんまり発芽せん草やでー、って言われとったから、適当にぱらぱら撒いたら、こーんなに芽ぇ出てなぁ」
祖母はにこにこと説明する。
「もう、本葉なりかけとるで、間引きせんとなぁ」
言いながら、左端の芽の一帯に手を伸ばし、祖母はその内の何本かの芽をぷつぷつずるずると抜き取って、ビニール袋にぽいと突っ込んだ。祖母の目が、プランター全体をくまなく回る。やがてまた、皮膚の分厚そうな指が動き、芽を幾つか取った。
ぶちり、ぶつ、ぶちり、と続く音に、悟は何故か心を削られるような不安感を覚え始めた。音だけではなく、祖母の指が芽をビニール袋に入れる瞬間、それが世界でどうでもいいようなものの扱いをされているのを見て、奥歯を揺さぶられるような歯がゆさも感じる。

「な、なぁ」
悟が話しかけると、祖母はプランターに視線を向けたまま、「なんね」と答えた。
「その間引いた芽、どうするんだ?」
「捨てるしかないやろなぁ。…こんなによぉ芽ぇ出るって分かってたら、撒く時期もずらしたんやけど」
祖母は、それを何でもないことのように言った。
「そ、そうか…」
祖母は決して残酷な人間ではないし、悪意を持ってそんなことを言っているわけではない。ただ、当たり前に、それをごくある事としてさらりと説明する様子が、悟には耐えがたいものがあった。

植物はこんなにも簡単に、間引きされ、捨てられる。

悟は、唾を飲み込んだ。
「あの…間引かなかったら、…どうなるんだ? 間引きって、…そんなに大事なのか?」
その答えが分かっていたとしても、聞かずにはいられなかった。こめかみに浮いた汗が、頬を伝って顎まで下りる。悟は、乾いた唇を舌で舐めた。
祖母はふと手を止め、悟の方を見た。その表情からは何も読み取ることが出来なかった。
「間引きせんかったら、この鉢ん中の子、みぃんな駄目なってまうでね」
祖母は続けた。
「皆が皆生き残れんのよ。土の栄養も限られとるし、根っこが絡まって共倒れしてまう。可愛そうと思うかもしれんけど、他の子ぉ生かすために、しょうがないわな」
その指が、またずるりと芽を抜いた。白い根っこがするすると土から現れる。
「この芽が1つ無いだけで、他の子の生き延びる分が出来るんよ。…やから、間引きは大事な事なんや」
「で、でも…」
祖母は、悟の言葉をさえぎって、ふぅと息を吐いた。
「悟は、えらい優しい子やね。…そりゃお祖母ちゃんも、この芽ぇが憎くてやってるんちゃうよ? …抜いて捨ててまう芽ぇは可愛そうやわ。申し訳ないなぁ、て思う。…やけど、しゃぁないでな。必要なことなんやで。この鉢を生かす為には、しゃぁないんやわ」
頭の中で、鐘がわんわんと鳴っているようだった。先ほど頭に叩き込んだ公式や常識問題が、全てばらばらに千切れて、無数のチカチカする光になって交錯し、明滅しながらぼんやり消えていった。

 やがて、祖母が作業を終え、立ち上がった。簡単な伸びをしながら、腰をぽんぽんと叩いている。
「ほんで、次はこっちや」
数歩移動して、また別のプランターへ向き合う。しばらくして、ぶちっ、ずるるっ、という音が何度も続いた。悟は、頭痛や吐き気を混ぜたようなものを感じながら、祖母の元へ寄った。
「…その、間引きの基準って…何?」
「なんやそれ」
「だから、…どの芽を間引くか、間引かないか、っていう」
悟の目は真剣だった。祖母は、ゆっくり目を瞬かせ、ううん、と少し悩み、やがてあっけらかんと答えた。
「無いわなぁ、そんなの。…強いて言うなら、弱そうな子はあんまり残さんなぁ。でも、…どの芽ぇも似たようなもんやでな」
「じゃあ、じゃあ…」
悟は、先日の待機室の中での、“もやし”を思い浮かべた。
「同じような大きさの葉があったら?」
「ほんなん、どっちでもええんや」
祖母は、さらりと言った。
「台風で潰されるかもしれん、6枚ぐらい葉っぱ出して、その後上手く成長せんかもしれん、雨に弱いかもしれん、ダメになるかもしれん。間引きして残しても、それからまた上手に花咲かすんはちょっとだけなんよ。…こんなちっこい芽ぇで、そんなん判断できん。やで、どっちでも、どれでもええんや」
そう言って悟に背を向け、再びプランターと向き合いながら、祖母は付け足すように言った。
「ほんま、たまたま都合のええのを適当に選んでるだけやでなぁ。基準なんて大層なもん、ないわ。目についたの、ぽいぽい抜いとるだけやしなぁ…」

間引きに、大した基準はない。
ただ無作為に選ばれたものが生き残り、無作為に選ばれなかったものが摘まれる。
では、あの芽たちが懸命に生きようとしている理由は? その意義は?
悟の口から、知らず知らず、笑みがこぼれた。自嘲気味の、悲しく冷たい笑みだった。
それらの事柄は、今までに悟が受けたどんな辛辣な言葉よりも、どんな冷たい態度よりも、どんな紙切れよりも、悟を否定した。
悟のこれまでを、あっさりと否定した。

「そうか」
悟は笑った。
「そういうものだったか」
祖母がホースを持って庭を出て行く。悟は、天を仰ぎ、腹の底から笑った。
「そうやったんや」
笑いながら涙を零した。
「そういうもんやったんや」
喉が千切れるかと思うまで、悟は肩を痙攣させ、笑い続けた。

 笑いの発作が治まると、自分の中にある養分が、何かによって全て抜き取られてしまったようだった。悟はしばし祖母の背中を見つめ、やがて、庭から居間にあがり、寝転んだ。耳の中の鐘は鳴り止むどころかテンポを速め、彼を馬のように急き立てようとしていた。しかし、悟はもはや、片手をあげる気力さえ吸い取られてしまったようで、急き立てられようが、どんな声をかけられようが、反応することすらできなかった。

「暑いなぁ」
悟は呟いた。
「ほんま、暑いわぁ」
何度も、呟いた。

 次の日、悟は少しの量の朝食を食べ、いつものスーツを着て、鞄を持って玄関を出た。日差しが眩しく、クラクラした。
相変わらず、歩くだけで焼け焦げそうな道路の上をずるずると歩き、駅まで向かう。
5分ほど歩くと、道は行きに苦労した山道に差し掛かった。激流が轟音をあげる川沿いの道を歩きながら、悟はなんとなしに立ち止まって、顔を上げた。
青々とした木々が、悟の歩いている歩道に天井を作っている。その合間から、目に痛くない程度の木漏れ日が差し込み、辺りを明るくしていた。緑と黒と白が混じり、葉と葉の間の陰影が折り重なり、ゆらゆらと規則正しく揺れている。
「…ああ…」
悟は穏やかに微笑んだ。
自らの体も、木々の葉の動きに合わせて、ゆらゆら揺れるようだった。風に吹かれ、あちら、こちらへ。
涼しげな風が、彼の体を包み込んだ。

 母親がこぐ自転車の後ろの席に乗った子供が、きゃっきゃと楽しそうに声をあげている。黄色い幼稚園帽が、風にはたはた揺れて、危なっかしい。
幼稚園で何か楽しいことが起こるのだろうか。それをあの子供はどれほど楽しみにしているのだろう。
自転車のタイヤが、風車のように回る。時折、舗装がいい加減な山道のせいで、がたんっと大きな音を立て、後部が浮く。幼子は一瞬それに驚き、やがて、腹の底から笑う。笑い声に誘われて、木々がしゃんしゃんと音を立てながら、また木の葉を散らす。
「今日は暑くなりそうね」
母親が言った。
朝から濡れタオルを首に当てたい、そんな5月のある朝のことだった。

 竹中 悟の死体は、その日の夕暮に、付近の住民によって発見された。川の下流に浮いていた。幾つもの懐中電灯が、彼のスーツの背中を丸く照らした。
彼の死は、事故か自殺か際どいところだったが、彼のアパートにぐしゃぐしゃになった「不採用通知」があった事から、大方、自殺だろうと判断された。

彼の死は、夕方のニュースの隅で報道された。或いはそれを、昨今の就職活動の激化と重ねて報道した地方の報道番組もあったかもしれない。
しかし、それはテレビやラジオの前でニュースを見聞きしていた誰かの気を確かにひいたものの、誰の心に残ることもなく、世の中の1つの出来事として、流れて行った。





2012年 6月14日 に書き終り

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