アクマァシュ ep1.「天使の歌声」



*キャラ表*

アッシュ  悪魔の亜種。帽子にこだわりがある。綺麗好きで爪の手入れは欠かさない。 
細谷 ほのか(ほそたに ほのか) 周囲からは「強気」「意思がはっきりしてる」と言われていた女の子。
声が出なくなってからはすっかりふさぎ込んで別人のように暗くなった。
 才崎 恋(さいざき れん) 一見物静かに見えるが、したたかで計画的、自分の願望に対する粘り強さがある。
歌手としての将来を有望視され、幼いころから英才教育を受けてきた。
 先生A  
 先生B  
 女子高生  


--------------------以下本文



女子生徒「先生おはようございまーす!」
先生A「ああおはよう。…あ、細谷(ほそたに)! おはよう……(無視され、振り返る)…行ってしまったか」
先生B「斉藤先生。…ふさぎこんでますね、細谷さん」
先生A「ああ、おはようございます。…そうですね…オーディションまであと一ヶ月ってところでしたからね…」
先生B「声が出なくなった原因、分からないんでしょう?」
先生A「ええ…一応通院してなんとか治る見込みがないか探しているみたいなんですが…お母さんの話によると、もう戻ることはないかもしれない、むしろその可能性が高いと病院でいわれたそうで…」
先生B「かわいそうに。 (声を潜め苦笑しながら)あまり大きい声じゃ言えませんけど、私、細谷さんの歌とても好きだったんです。天使の歌声って、ああいうことを言うんですかね」
先生A「そう思うとつくづく…もったいないといってはなんですが…可哀想になぁ」

れん「ほのかちゃん、おーはよっ(後ろからぽんと背中を叩く」
ほのか「…ぁ…」
れん「昨日病院行ったんだよね。…声…やっぱり戻らないんだ(心配の表情」
ほのか「……ん…」
れん「え、何?」
【SE*ボールペンの芯を出す音】
【SE*かりかりとノートに書き込む音】
れん「…れんちゃん…おーでぃしょん…は…でる…の? ああ、オーディション? うん、出るよ」
ほのか「…ふ(ぎこちなく微笑む」
【SE*かりかりとノートに書き込む音】
れん「おめ、でと…? やだ、まだ受かるって決まったわけじゃないよ。気が早いよほのかちゃん」
ほのか「…ん」
れん「…事務所の人…スクールに…見に来てた? …うん、そうなんだ。でも、それはなんていうのかな、挨拶…みたいな感じでさ。だから、審査はあくまで公正で公平なんだからがんばるように、って釘刺されちゃった(まんざらでもない様子) …ってほのかちゃん? え、もうすぐ授業始まるよ?」
ほのか「…ん」
れん「ず、頭痛? 帰る? あ、待ってほのかちゃ……行っちゃった…」


ほのか「…っく…ふ…っ…!(その場に崩れ泣く)」
アッシュ「あーあ、こんな所で泣き崩れて…。まぁ、決して人に見つからない場所でしか涙を見せない、あなたのそういうプライドのたかそーなところ、嫌いじゃないですよ」
ほのか「っ!?(びっくりして顔をあげる」
アッシュ「自己紹介の前に、少し眠りましょう、ねっ」


ほのか「…ぅ…(起き上がる」
アッシュ「こーんにちはー(にっこり」
ほのか「あ、あなた誰!?」
アッシュ「その前に確認。細谷 ほのかさんですね? 人間違いじゃない?」
ほのか「…あなた…」
アッシュ「ほら、あなたはほのかさん? それとも、非・ほのかさん?」
ほのか「そう、だけど…」
アッシュ「ああよかった! いやぁこの間山崎さんと春山さんを間違えたばっかりで、ちょっと神経質なってんですよ! あははよかったぁ!」
ほのか「あ、あなたは、誰…!?」
アッシュ「その質問の前に、ココはどこ? じゃないでしょうか。ちなみに此処は18世紀のロンドンを模した素敵カフェです。完全に、ボクの趣味で選びました!」
ほのか「あ、あなた何言って・・・」
アッシュ「とはいえ、夢の中なので別段どこに居ようとカフェであろうと工事現場であろうと関係ないんですけどね。夢の中である証拠に、ほらほのかさん、先ほどから言葉が流暢」
ほのか「…え…あ…(驚く)…ここは…夢…?」
アッシュ「そう、ボクが招いた夢の中です。とーこーろーでー、ほのかさん、夢の外…つまり現実でも、声を取り戻したいとか思ったことありますー?」
ほのか「そんな…(ごくりとつばを飲む)そ、そんなの当たり前じゃない! 次のスプリングプロのオーディションで、何もかもが決まる予定だったの! あれにさえ合格すれば…そうしたら…」
アッシュ「ふっふっふ。叶えたい願いに悪魔は敏感なのでーす」
ほのか「悪魔…?」
アッシュ「そう、ボクは悪魔――の亜種。悪魔亜種です。略してアッシュって呼んでね!(ぱちっとウインクして決めポーズ」
ほのか「…私、変な夢を見てる…すごく変な夢…」
アッシュ「(ぶつぶつと)いやもうこれホント最近キャラ付けに困ってんですよねー。もうちょっとこう…悪魔でーすって感じで炎とかブワワーッて出そうかなって思ってるんですけど、まぁ来シーズンから本気出そうかなって…」
ほのか「…」
アッシュ「ああ、虫を見るような目で見られてる! 悪魔なのに! 亜種だけど! (帽子をくいくい直し)…さてところで細谷ほのかさん」
ほのか「何」
アッシュ「ちょっとお年頃の貴方に質問! 悪魔に会ったことありますー?」
ほのか「無いわよ!(力いっぱい) 日常生活でそういうオカルトに出会うなんてありえないでしょ!」
アッシュ「でーすよねー! あ、あと悪魔ってのは信仰の自由でオカルトじゃないんでよろしくー!」
ほのか「もう、もう…あなた何を言ってるの、あなたなんなの…」
アッシュ「悪魔です! 亜種だけど! …さて本題。こほん。…ほのかさん、声、取り戻したいでしょ?」
ほのか「え、何? 何なの? ねぇ、新手の宗教勧誘?」
アッシュ「言いえて妙!(ぴしっと指差す) …ところで貴方の声が突然出なくなった原因ってしってますー? っていうかほのかさんがのんびりのんのん暮らしてる人間の世界の裏に実は悪魔と天使のものすごい抗争があって日々翼をもがれた天使や悪魔が無限の世界に落ちててなんやかんやあって結構人間の目には見えないけど悪魔的な何かがいるって知ってましたー?(一息」
ほのか「…知らない(答えるのが面倒になりながら」
アッシュ「ですよねー!(ぴしっと指差す) まぁそういうなんやかんやがあって、ほのかさんのお友達が不幸にも声を失ってしまい悪魔の力を借りてほのかさんの声を奪ったが為に貴方の声が出なくなったっていうの知ってますー?」
ほのか「知らな……(目をぱちぱちさせる間)……待って、今なんて?」
アッシュ「あ、どこから繰り返します? ですよねーから? …あ、違いますね分かります。要するに、あなたのお友達が、あなたの声を悪魔の力を使って奪ったって話です」
ほのか「…(唇を噛む)本当に変な夢を見ているわ…」
アッシュ「でもでもー、今なら間に合うんですよ! 今ボクに、取り戻すことを願えば、彼女から取り戻せるんです。そう、貴方の声、貴方の歌声」
ほのか「私の声を……彼女、って…?」
アッシュ「そう、才崎 レン(さいざき れん) お友達でしょ?(至極楽しそうにウインク」
ほのか「…待って…(目の前の生き物に怯える)…待って…何を、…おかしい、あなたおかしいよ…」
アッシュ「才崎 レンが、両親のありがたーいご期待からなる度重なる英才教育の末に喉の酷使で去年から一年ばかり声を失っていたのはご存知でしたー?(にっこりと」
ほのか「…(小声で)…知ってた…」
アッシュ「だったら話が早い! レンさんが声を取り戻したのはー?」
ほのか「…二ヶ月前…」
アッシュ「貴方の喉に異常が出始めたのはー?」
ほのか「…(認めたくない、というように)…二ヶ月、前…」
アッシュ「すっごい偶然! とでも思いました? 思っちゃいますよねー人間ですもんねーあっはっはっはっは! でーすよねー! …でもこれが実は、れんさんが無意識の間に願ったことを悪魔…あ、これ亜種じゃなくて本職の方の悪魔が聞きつけて、れんさんがね、(声色を変えて)『おねがいです、悪魔に魂でもなんでも売りますから声を取り戻したいんです』ってお願いしてー、んで悪魔さんが『ではくれてやろう』って言って、あ・な・た・からもぎとったんですよぅー! 知ってましたー?」
ほのか「…っ…知らない、知らない何も知らない! こんなところから出して! はやく!」
アッシュ「おやー? おやー? いいんですかー? これ、最後のチャンスなんですよー? (まじめな顔で)……ねぇ、聞いてほのかさん」
ほのか「っ…(アッシュを見上げる」
アッシュ「ボクはね、悪魔の亜種。悪魔だから人の願いを外道の方法で叶える。でも亜種だから、無闇やたらじゃない。悪魔に何かを奪われた人に…(にっこりと微笑む)取り戻すチャンスを差し上げてるんです。」
ほのか「…私の声が…戻る…?」
アッシュ「そう。ほのかさん。ねぇ、もう一度歌いたいですか?」
ほのか「………歌いたい。お願い、…取り戻して」
アッシュ「いいえほのかさん。取り戻すのは、あなた自身で、ですよ」

【SE*びゅぉっと風が吹く】
ほのか「な、何!?」

ほのか「ぁ…」
アッシュ「此処はどこかって? 廊下です。レンさんのおうちのレンさんのお部屋の前ですよ。さぁ、扉を開けてください」
ほのか「…っ…」
【SE*がちゃりと扉を開ける音】
アッシュ「寝てますねぇ、レンさん。…さ、近づいて」
ほのか「…ん…」
アッシュ「ここからどうすればいいかって? これを使うんですよ」
【SE*金属の道具がこすれる音】
ほのか「っ…!(目を見開く」
アッシュ「そう、ばばーん。ノミとカナヅチ!」
ほのか「っ…ゃ…!(渡された道具を床に投げ捨てる」
【SE*金属製の道具が床を転がる音】
アッシュ「おやおやー? 捨てちゃっていいんですかー? うん、その表情だと、何をするかはもう悟ったみたいですね! そうです、悪魔に奪われた声を取り戻す方法は何か? 答えはそう、物理的に彼女の喉を潰しちゃうんです! ささっ、ごっつーんとやっちゃいましょう!」
ほのか「…ゃ……(首を振る」
アッシュ「おやおやおやー? 震えてますねー。もしや、ノミとカナヅチで人の喉を叩き割るのは初めての経験ー? でーすよねー! あっはっはっは! …さてさてさて。ね、ほのかさん」
ほのか「っ…」
アッシュ「ボクは、道具を渡すところまで。後を無理強いするつもりはありません」
ほのか「…ぁ…」
アッシュ「おや? おや? 道具を返してくれるんですか?」
ほのか「…ん…(何度も頷く」
アッシュ「そうですね、誰だって自分の願いを叶えてしまいたいと思う気持ちは同じですものね、レンさんの喉をぶち折るなんて怖いことをしなくても、そこまで人間やめたくないですよねー!」
ほのか「…ぁ…」
アッシュ「分かりました、では帰りましょう。さすがはほのかさん、天使の歌声の持ち主といわれるアナタは自らも天使だったというわけだ! …おっと? ここにあるのは録音機材ですね」
ほのか「…?」
アッシュ「お歌の練習用機材でしょうか。どーれどれ。えいっ」
【SE*ピッ、と機械音】

れん(録音された声)『才崎 れん。16歳です。小さいころから歌手になることが夢でした。広いステージで、たくさんの人に私の歌声を隅々まで届けたい。幼いころに憧れた、アズミ・ヒロエさんと同じ舞台に、いいえいつかヒロエさんさえも越えたいと思います。課題曲は、そんなアズミ・ヒロエさんの曲――』

【SE*ピッ、と機械音】
アッシュ「いやぁーあっはっは、美しい声だ。こんな綺麗な声の裏で、いやいやさぞかし練習を積んでいるんでしょうね。やはり、天才は努力の上に立つからこそ天才ですからねぇ! おや、ほのかさんいかがしましたー?」
ほのか「ぅうっ…(顔を抑え泣き崩れる」
アッシュ「あ、声に感動しちゃいました? わーかりますよー! 彼女はこれからきっと、たくさんの人を感動させる歌い手になるのでしょうね…! そんな素敵な未来が見えます…! ちょっとボクも涙が……おや、ほのかさんどうしました?」
ほのか「っ…」
アッシュ「…ああ、…これをお探しですか?(静かに微笑む」
【SE*金属の道具がこすれる音】
アッシュ「ふ、ふふふ、ではどうぞ。さ、まずはノミをきちんと定めて。それが大事です。堅そうな喉ですね。でもほら、さあ、一思いに。何度も殴られると痛いですからねー。やるならばやはり一息に。…ね、ほのかさん」
ほのか「…っ…はっ……はぁ…(呼吸を整える」
アッシュ「ああ、ふふふ、どうかお二人に」
ほのか「ッ!(右手を振り上げる」
アッシュ「幸せが訪れますよぉーにっ」
【SE*鈍い打撲音、立て続けに五回】

ほのか「っはぁ…はぁっ…は…ぁ…」
アッシュ「ふふ、ふふふ(ウキウキと楽しそう」
ほのか「…れん…死んだの…?」
アッシュ「いえいえ、そこは悪魔のふしぎーな力で、殴った分だけ喉の機能が失われるだけです。死にはしません。ああ、しまったーしまったー最初に言っといた方がよかったですかね? でもほら、ねぇ、それ言っちゃうとねー! あっはっはっは、にしても、なかなかコテンパンに打ち据えましたねー、あっはっはっは!」
ほのか「中途半端じゃ…また…奪われるでしょう…(肩で息を整えながら」
アッシュ「ふふふ、その意思の強さこそ、アナタを選んだ理由ですよ。…さあほのかさん、帰りましょう」
ほのか「…はい。…あ、少し待ってください」

【SE*一人分の足音】

ほのか「…レン…」

ほのか「…ごめんね」

(間)

アッシュ「ああ見てください、ほのかさん。真っ赤な真っ赤な月ですよ(ワクワクと楽しそうに」



女子生徒「先生おはようございまーす!」
先生A「おはよう」
先生B「斉藤先生、おはようございます」
先生A「おはようございます。…あの、ちょっと聞いたんですけれど…そちらのクラスの才崎 レンさんが…」
先生B「ええ…どうも声が出なくなる症状がまた突然ぶり返したみたいで…」
先生A「そうなんですか…」
先生B「はい、治療は続けるそうですけれど…」
ほのか「先生、おはようございます!(朗らかに元気よく」
先生A「ああ、おはよう。…細谷はもう、すっかり元気になったみたいですね」
先生B「(気を取り持つように)…ええ。なんだか聞いていると元気が出ます。さすがは、天使の歌声の持ち主ですね」






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-ukhm-

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