姫と王子と双子と執事 性別反転版



キャラ表

(性別表記の無いキャラクターは、性別不問)

・ショコラ(♂)
・ノエル(♀)
・クロエ(♀)
・レーズン(不問)
・カシュー(不問)


以上5名



--------------------以下本文



【状況*森の中。1人でざくざくとぼとぼと歩く少女、ショコラ】
【SE*足音】
ショコラ「(ため息)はぁ……此処は何処かなぁ。お腹がすいたよ…。…とにかく山の入り口を目指していたはずなのに、(周りを見回し)こんな山奥に見覚えなんて一切ないんだけど。  (憤慨した様子で)それにしても酷いな、何故こんなに足元が暗いのか――(はっと気づいた様子で)……夜だからだ…!」

ショコラ「とにかく、はやく帰らないと、夕飯の時間に遅れてしまうな――おや」

【SE*ふと足音がとまる】

ショコラ「…何だろう、あの城。…大きいな…!」

【SE*足音】
【SE*扉をノックする音】

ショコラ「灯りはついているし、誰か居るはずだよな」
【SE*きぃ、と扉が開く音】
クロエ「(きびきびと)はい、どちら様でしょう」
ショコラ「こんばんは、ボクの名はショコラ・ド・ジニア・エレガンス。…栗拾いをしていたら神様の惑わしにあって、…簡単に言うと、道に迷って此処まで辿り着いたんだ」
クロエ「(驚いて)それは、不幸な…」
ショコラ「伝書鳩でも鷲でもいいから、家に連絡したいのさ。それに、お腹が空いたよ。バスケットいっぱいの焼き菓子と熱い紅茶があるとボクは喜ぶよ?」
クロエ「(労わる表情で)それはそれはお気の毒に…さあ、どうぞ中へ」
ショコラ「感謝するよ」

【SE*扉が閉じる音】

レーズン「お客様!」
カシュー「お客様ぁ!」
レーズン「いらっしゃいませノエル城へ!」
カシュー「ノエル城へいらっしゃいませぇ!」
クロエ「エレガンス家のご子息、ショコラ様。――私どもは、この山奥の館に暮らしている風変わりな者達です。貴方様を謹んでお招きいたしますが、決して――」
レーズン「お茶はいかが!?」
カシュー「お菓子はいかが!?」
クロエ「(きりっと睨みつけ)お黙りなさい、2人とも」
レーズン「はぁい(しょぼーんと)」
カシュー「はいぃ(しょぼーんと)」
クロエ「――(ショコラに向き直り)えー…そう、それで、謹んでお招きいたしますが、この館までの道、この館の存在を、決して他言なさらぬよう、お願い申し上げます」
ショコラ「(興味を惹かれた様子で)おや、秘密の館なのかい?」
クロエ「(粛々と)色々と事情があるのでございます」
ショコラ「まぁ、そうだね。ボクにだってイロイロとジジョーがあるよ、うんうん(難しい言葉をちょっと使ってみたかった様子で)…とにかく、ボクは構わないよ。帰りたいだけだからね」
クロエ「それに関しては問題ありません。…明朝、私めが馬車でショコラ様をお送りいたします」
ショコラ「明朝? 何故? 今では駄目なの?」
クロエ「(おごそかに)夜、この辺りは獣が出ますので…」
ショコラ「おっと…それは駄目だね。 (平静ぶりながらガクガク震えて)お、恐ろしいね、うん、恐ろしい…」
レーズン「んんんんんー(恐ろしいー! と口を抑えながら言う)」
カシュー「んんんんんー(恐ろしいー! と口を抑えながら言う)」
クロエ「…ショコラ様、この2人はこのノエル城の使用人、左がレーズン、右がカシュー。…2人とも、もう喋ってもいいですよ」
レーズン「(抑えていた手を離し、ぷはっと息を吐いて)もう喋ってもいい!」
カシュー「(抑えていた手を離し、ぷはっと息を吐いて)喋ってももういい!」
ショコラ「双子なんだね」
レーズン「双子かもしれない!(クイズのように」
クロエ「双子です(さっくりと」
レーズン「ばらした!(ガーンとショックを受け)」
カシュー「ばらされた!(ガーンとショックを受け)」
クロエ「厄介な子たちですが、城内の内装だけは腕が上手いのです」
ショコラ「そうなんだ、後で見てみたいな」
クロエ「(にこやかに)構いませんよ。  (ふと気づいた様子で)そう、申し遅れました。…私はこのノエル城のメイドをしております、クロエ・アルベルトと申します。何かご不明な点がありました場合は――」
ショコラ「(間髪空けずに)何歳なんだい? クロエ」
クロエ「(少し間を空け、咳払い)…何かご不明な点がありました場合は、どうぞお気軽にお尋ねください」
ショコラ「何歳なんだい?」
クロエ「…(少し間を空け)…レーズン、カシュー、2階の客間のベッドを整えて来なさい」
レーズン「ベッドを!」
カシュー「整える!」
レーズン「2階の!」
カシュー「客間!」
レーズン「急ぐのー!」
【SE*ばたばたと2階へ急ぐ足音】

クロエ「(2人の騒がしさにため息を吐きながら)2階の準備が整うまでの間に、お茶を淹れましょう」
ショコラ「ねぇクロエ」
クロエ「…何でしょう(また年齢を聞かれるかと身構え)」
ショコラ「この城には、貴方とあの双子しかいないの?」
クロエ「…(少し考え)…いいえ。…この城にはあとお1人、我らの主人がおられます」
ショコラ「主人? ではボクはその方に挨拶するべきだよね。獣が出る夜の帰宅を避けて、泊めてもらうのだし」
クロエ「…いいえ、それが主人は…(スマートに嘘を考え)…滅多に部屋から出てこないのです。…感染する病にかかりやすい性質で」
ショコラ「それは、お気の毒に…」
クロエ「…ええ…」

【SE*こつこつ、と階段を下りてくる音】
ノエル「(鬱陶しそうな表情で)ねぇクロエ…、双子が随分とはしゃいでいるようだけれど…」
クロエ「(一瞬、げっという表情をして)…ぁ…ノエル様…お客様で御座います」
ショコラ「ノエル?(小声で」
ノエル「へぇ、お客――(ぱっと表情を明るくし)わぁ、可愛いじゃないっ…ふふっ」
クロエ「ショコラ様、こちらが我々の主人、ノエル様で御座います」
ショコラ「あ、初めまして。先ほどお目にかかりたいという話をしていたところです(子息らしく挨拶」
ノエル「こんばんは。…わたくしは、ノエル・アドリエンヌ・ドゥール・フォン・ヴィルヘルム。どうぞよろし――(握手の為、手を差し出そうとする)」
クロエ「ノエル様、お加減がまだ万全ではないでしょう、さあさあ寝室へ御戻りくださいっ(早口で」
ノエル「えぇ、クロエ? ちょっと、もう少しあの子と話をさせて――」
レーズン「ただいまなのー!カシューはまだ準備してるのー!」
クロエ「レーズン、レーズン、こちらへ!ノエル様を寝室へお連れして!」
レーズン「はーい」
ノエル「あ、ああ、もう、クロエってば… (ふっと笑い、ショコラに手を振る)それじゃあお客様、またねぇー…っと、あんまり引っ張らないで欲しいわ、レーズン…」

【SE*ばたばたと去っていく足音】

クロエ「…失礼致しました、何せノエル様はまだ体調が万全ではありませんので…」
ショコラ「なら仕方ないと思うよ。……で?」
クロエ「…はい?」
ショコラ「このお城、他の使用人は? なんだかレーズンとカシューに沢山仕事があるみたいだけれど」
クロエ「…私と、レーズンとカシューの3人で御座いますが(しごく当然に」
ショコラ「3人!? どうして? だってこんなに大きいお城なのに――」
【SE*ばたばたとこちらに近づいてくる足音】
カシュー「整ったー!」
レーズン「連れてったー!」
クロエ「ご苦労様、2人とも。 (ショコラに向き直って、さっぱりと)使用人は3人もいれば、十分なのです。…(双子の方を向いて)レーズン、カシュー。…ショコラ様を客間へ案内して下さい。ショコラ様、後でお食事をお持ちいたします」
ショコラ「あぁ、ありがとう…」
レーズン「案内するの!」
カシュー「こっちこっちー!」
ショコラ「あ、うん…(立ち上がり」
クロエ「(釘を刺すように)レーズン、カシュー。決して、絶対に、ご令嬢に粗相の無いように」
レーズン「はーい!(元気よく」
カシュー「はぁーい!(行儀よく」
クロエ「2人とも、頼みましたよ…あ…(何かに気づいた様子で、歩き出したショコラに近寄り)ショコラ様、1つご忠告が」
ショコラ「忠告?」
クロエ「いえ、忠告というよりは、お願い…いえ、やはり忠告、なのですが…(言葉を選んで少し悩み)…まあ、いいでしょう。…この城の3階には、決して近づきませんよう、お願いいたします」
ショコラ「3階? どうして?」
クロエ「(スマートな顔で嘘を考え)…少々、廊下が老朽化しておりまして、危ないので御座います。…(すっと声を低め)…どうぞ、3階には近寄りませんように…」
ショコラ「(首をかしげ)…うん、分かったよ」
クロエ「(すっと笑顔を戻し)では、いってらっしゃいませ」
レーズン「いってきますのー(ショコラの左手を握り)」
カシュー「いってまいりますのー(ショコラの右手を握り)」
ショコラ「ちょっと、2人とも両手を握られては歩き難いよっ」
クロエ「(歩いて行く双子に声をかけ)粗相のないように、分かりましたか!  (独り言)…さて、と…」

(少し間を空け)

ショコラ「…はー、ご馳走様。とても美味しかった!」
クロエ「(一礼)ありがとうございます。…ショコラ様、後で暖かいミルクをお持ちしましょうか?」
ショコラ「いや、沢山疲れて、沢山食べて、もうすぐに寝てしまいそうだ…(ベッドに座ってうとうとと目をこすり、あくびをする」
クロエ「左様ですか、それでは、おやすみなさいませ(一礼をして扉を閉める」
ショコラ「…んー…(伸びをする)」
【SE*ばふっとベッドに横たわる音】
ショコラ「いいお城だ…後でまた…来たいぐらい…んー…」

(少し間を空け)

ショコラ「…ん? …何か今物音が…気のせいかな。 ……気のせいだな」
【SE*ばふっとベッドに横たわる音】
ショコラ「とにかく寝よっと………(1度目を閉じるが、ぱちりと目を開け、ため息)……喉が渇いたな。…クロエはお城の何処にいるんだろう」

【SE*扉が開き、閉まる音】
【SE*小柄な足音】

ショコラ「クロエ…クロエ…考えたら、クロエやレーズン達の寝室が何処にあるのか聞かなかったな。…それにしても、なんでこんなに城中が暗いのかなぁ…。足元が見えにくいじゃないか! …(はっと気づいた様子で)…夜中だからだ!」

(少し間を空け)

ショコラ「…調理場…には居ないようだ。…じゃあ2階の…2階ってボクの客室の他にいくつ部屋があったかな…」
【SE*階段を上がる音】
ショコラ「おや、物置…じゃあこっちが…えーと…」
【SE*階段を下る音】
ショコラ「…クロエたちの寝室…クロエ達の寝室…あ、あの部屋のステンドグラス、とっても綺麗…」

(少し間を空け)

ショコラ「…(ため息)迷った…(深刻な表情で)」
ショコラ「此処は何処なのかな…ボクの客室自体どこか分からないし…あっちの廊下の…」
レーズン「ふふふふっ」
ショコラ「わぁっ(2,3歩後ずさって) カ、カシュー?」
カシュー「それはレーズンだよ(ぼそっと、ショコラの背後で」
ショコラ「ひゃっ…あ…カシュー…君なんだね。それに、レーズンも…君達、何故こんな時間に起きているの?」
レーズン「眠れないのー」
カシュー「眠いけど眠れないのー」
レーズン「ショコラは、どうしたのー?(首を右に傾げて無邪気な様子で」
カシュー「どうしたの、ショコラ?(首を左に傾げて無邪気な様子で」
ショコラ「(困った顔で)このお城、広すぎるんだ。道に迷ったのさ。ねえ、此処がどこだか教えてくれる? ボク、客室に帰りたいよ」
レーズン「帰りたいの? それなら、あっちだよ(廊下の端を指差し」
カシュー「そうそう、そっちそっちー(同じ方向を指差し」
ショコラ「あぁ、2人ともありがとう。…それじゃあボクは部屋に戻るよ。喉が渇いてるのはしょうがないけど、また疲れてしまったもの。おやすみなさい(てくてくと歩き出し」
レーズン「うん、ばいばーい(笑いながら手を振り」
カシュー「うん、さよならー(笑いながら手を振り」
【SE*遠ざかる足音】

(少し間)

カシュー「(ひそひそと)ねぇねぇ、今嘘ついた?」
レーズン「えぇ? わかんなーい。眠くて眠くて、わかんなーい(くすくすと」
カシュー「だよねっ!眠いからわかんないよね!(くすくすと」
レーズン「うんうん!」

(少し間)


ショコラ「…暗いな。…2階ってこんな感じだったかなぁ…」
【SE*どんっとぶつかる音】
ショコラ「ひゃっ、な、なぁに? だれ?」
ノエル「…おやぁ? …だぁーれだ?」
ショコラ「あ…ノエル…?」
ノエル「ふふ、ああ、ショコラじゃないのぉ…眠れないのかなぁ?」
ショコラ「いえ、迷っ…(弱気になりそうなところを押し殺して強気に)うん、そう、眠れないんだ」
ノエル「そう…そうなの…。…なら、わたくしの部屋でお菓子でも食べましょ、ねぇ、ショコラ…」
ショコラ「お菓子!?(ぱっと表情を明るくして) お菓子があるのかい?」
ノエル「(ふっと笑って)そうよ、お菓子があるの…。…おいで…ふふ、ふふっ」

ノエル「さあ、着いたわ」
【SE*重い扉がぎぃっと開く音】
ショコラ「おや? なんだかとっても暗い部屋…」
ノエル「わたくしは暗いところが好きなの。…ねぇショコラ、この黒い花…すごく綺麗でしょう?」
ショコラ「ああ、美しいな。気品があって素敵だ(素直に同意」
ノエル「でしょう? …薬品…いや、香水にも使われるぐらいなのよ。…ふふ、だから香りも最高なの、…ふふ、ほらぁ…(差し出し)」
ショコラ「へぇ、そうなの? …どんなかな…(嗅いでみる)…あれ…なんだか…世界が…回っている……あぁ…(ふらっと倒れ」

(少し間を空け)

ショコラ「(ぱちりと目を開け)あれっ? ボクいつの間に椅子に…」
ノエル「ふふ、ふふふ…」
ショコラ「ノエル? ねぇ、ボクなんで縛られてるの? すごく痛いのだけど!(ぎしぎしと身体を動かし、不服そうに」
ノエル「だってぇ…縛らないと逃げ出しそうだし…(調理台の上に包丁とこん棒を並べながら)」
ショコラ「(ふとノエルの手元に視線をやり)…ノエル、君何してるの?」
ノエル「わたくし? わたくしはねぇ、…ふふ、ふふふ、料理の準備をしているのよ、ショコラ…美味しい、美味しい、料理をねぇ…(舌なめずり」
ショコラ「りょうり? (首を傾げて)…夜中じゃないか」
ノエル「明日のおやつにするのよ…その下ごしらえ…」
ショコラ「おやつ?」
ノエル「ジャムを作るのよ…ふふ…(恍惚と噛み締めるように)叩いて、潰して、混ぜて、その後煮詰めるのよぉ…ショコラ…ふふ…(笑いを抑えられない、という様子で」
ショコラ「でも、木苺も葡萄も、この部屋にはジャムの材料が何もないじゃないか」
ノエル「ショコラ…ふふ、ふふ、ねぇ、可愛いショコラ、…ふ、ふふ…(手に持っていたこん棒をぱたりと調理台に置き)」
ショコラ「な、なんだい? 何故近づいてくるのさ?」
ノエル「(恍惚と、夢見心地に)わたくしはねぇ…わたくしは…、ショコラ…ふふ、ふふふっ…(たまらない、といった様子で)わたくしは早く、貴方を、叩いて潰して混ぜて煮詰めて、瓶詰めにして棚に飾りたいのよぉっ…! 貴方を、貴方をよ…ふ、ふふっ」
ショコラ「…えっ」

【SE*絨毯の上を静かに歩く音】
クロエ「やれやれ、扉が開いているのかと思ったら、ただの風、でしたか……(何かに気づき)…おや? …これは、ショコラ様の髪飾り……お部屋までお送りしたときは、確かまだつけてらっしゃったはず…」
【SE*扉を静かに開く音】
クロエ「…ショコラ様…居ない…!?一体どちらに…!」
【SE*廊下を早歩きで移動する音】
クロエ「ショコラ様、ショコラ様――ああ、レーズン、カシュー!」
レーズン「はぁーい」
カシュー「はぁいー」
クロエ「あなた方、ショコラ様を見かけませんでしたか? いいえ、見たでしょう!(きっぱりと」
レーズン「えぇ、眠くてわかんないー(目をこするフリ」
カシュー「眠たくて覚えてないー(目をこするフリ」
クロエ「お黙りなさい、機械人形が眠いわけないでしょう!(ぴしゃりと」
レーズン「ふふふふっ」
カシュー「ふふふふっ」
クロエ「(はっと気づいた様子で)…まさか、ノエル様はあなた方にお夜食を注文したのですか?」
レーズン「なにか食べたいって言われたー」
カシュー「美味しそうなもの用意してって言われたー」
クロエ「…ということはまさか…」
カシュー「ジャムを作るんだってー」
レーズン「ねー」
クロエ「ああ…そんな、ショコラ様…!」
【SE*駆け出す足音】

ショコラ「ま、待って、待ってよ、君何を言ってるの? ちょっと待って、そのにたにた笑うのをやめてよ!ねぇ、君、何を言ってるの!?」
ノエル「何って…ほら…貴方を…美味しいジャム…瓶詰めにするのよ…ふふ、ふふ…」
ショコラ「どうしてさっ」
ノエル「だって貴方はなんだか美味しそうなのよ、ショコラ…ああ…ああ…あああっ…あは、ははっ…貴方はなんだか…(間をあけ、ぼそっと)…最初に食べた弟に似ている気さえするわ…あぁ…」
ショコラ「(甲高い声をあげ)嫌だっ! 君が食べたくてもボクは嫌だよっ! 近寄るな! こっちへ来るなぁ! ジャムになるなんて嫌だ! 叩かれて潰されて煮込まれたくなんてないよ! ちかよらないで!」
ノエル「あぁ…だから…ほらぁ…縛っておいてよかった…。…さあ、いい子ね、ショコラ…。じっくり、ジャムにしてあげるから――」
【SE*ばたぁんっ、と扉が開く】
クロエ「ノエル、様っ…!(息を切らして)」
ノエル「クロエ…」
ショコラ「クロエ!」
クロエ「あ、貴方って人は…!(つかつかとノエルに寄り) 何度も何度も言ったじゃねぇかよ! 人を食べたら鞭打ちじゃすまねぇぞってよぉ!(激しい剣幕で、どすのきいた声で)」
ノエル「えぇ、誰でも食べるわけじゃないわぁ、わたくしは可愛い子だけを――」
クロエ「食べていいわけねぇだろうがよぉおっ! もう、この、馬鹿ッ!(ぱぁんとノエルの頬をはたき) 馬鹿ッ!(ぱぁん) 馬鹿ッ!(ばしん) 阿呆がッ!(どかっ)」
ノエル「やめてよ、クロエ。痛いじゃないのぉ…」
クロエ「お前って奴はさー、もう勘弁してくれねぇかなー… 何度も何度も怒られて反省しないでいるからさぁ…、旦那様に幽閉なんてされんじゃねぇかよ! あああ、まだ分かってなかったなんてよぉおおっ!(絶叫)」
ノエル「だって無理よ、食べたいんだからぁ…!」
クロエ「まだ言うのかよっ、お前って奴はもう、ばか!(ぱぁん) ばか!(ぱぁん!) ばきゃっ!(ぱぁん!) 貴様の躾係として、本当に本当に、今夜だけは許さねぇええっ!(手を振り上げ」
ショコラ「…あの、ちょっといい?」
クロエ「ばかばかばかばきゃ――(すっと元の執事の口調・声に戻り)どうなさいましたか、ショコラ様(規律正しく」
ショコラ「(ぶすっとした表情)…ほどいてくれないか? …そちらのノエルに縛られたのだけれど」
クロエ「何という事を…失礼、少々お待ちください…(縄を解き)」
ショコラ「…ふーっ(疲れた、と手足をぱたぱたさせて)」
クロエ「大変失礼致しました。(一礼し、ばっと表情を変えてノエルに向き直る)…さ、じっとしろよ」
ノエル「え、クロエ…? 何をしているの?」
クロエ「今日は、貴様を此処に縛り付ける! 扉にも封印かけるからな!(ギシギシと音を立ててノエルをチェストに縛りつけ)――もぉっ、ほんとにばかなんだからさぁ…! いつかは俺サマの言ってることを理解すんじゃねーかって思ってたのによぉ! なおってなかったなんてな! ったく、もぉおっ!(腰に手を当て頭を抱え)」
ノエル「ふふ、誤解よぉ…。だって3階に可愛い子がいたら、食べ物だって思うじゃないのぉ…」
クロエ「(事務的な執事口調に戻って)レーズンとカシューが貴方の命令を履き違えて彼女を3階にやったのです。…あの子達を作った貴方なら、それぐらい分かっていたでしょう!(厳しく」
ノエル「えぇ…? ふふっ、分からなぁいなぁ…」
クロエ「ばかっ!(ぱぁん)」
ノエル「ふふ、ふふ…痛いわぁ、すごく痛い…。…ねぇ、クロエ…。 (ふと思いついて甘えるようにして)…もっと優しく躾けて欲しいなぁ…そうしてよぉ…」
クロエ「(ばばっと頬を赤らめ)ああ、ああっ、ああああっ、も、もぉ、そ、そんな表情したって、だめなんだからなっ(頬に両手を添えて) ま、惑わされねぇよ! だ、だめだって!こらっ めっ! (すっと表情を切り替え、ショコラに向き直り)…当家の主人が大変失礼を致しました、ショコラ様(規律正しく」
ショコラ「全くだよ。ボクが午後の美味しいお菓子を頂くはずなのに、ボクがお菓子にされるところだったもの(ぷんすか」
クロエ「大変失礼を致しました(深々と頭を下げ) …今夜は、私がお部屋の前に立ち、寝ずの番を致しましょう」
ショコラ「本当に本当に怖かったんだよ?(眉を寄せたままクロエを見上げ」
クロエ「誠に申し訳ありませんでした」
ショコラ「許さないんだから!」
クロエ「お詫びに、明日の朝食はホットケーキとフルーツティー添えに――」
ショコラ「それで手を打とう!寝よう!」
クロエ「ええ、それでは参りましょうか」
ノエル「クロエー、ねぇ、クロエー…わたくしも明日ホットケーキが食べたいわぁ」
クロエ「(オカマ口調で)てめぇはだめだ! 当分甘い物は抜きだから覚悟しな! (すっと執事口調で)さぁ、ショコラ様、こちらへ…」

【SE*扉がばたんと閉まる音】

ショコラ「…なんだか、迷子になってお城に迷い込んで、また迷ってジャムにされかけて、大変だったな…」
クロエ「お疲れ様でした、本当に…」
ショコラ「だから…もう…眠い…よ…(あくび)」
クロエ「…どうぞ、おやすみなさいませ、ショコラ様(何よりも優しい声で」

【SE*扉が静かに閉まる音】

【SE*ぱたぱたと近寄ってくる足音】
レーズン「ノエル様よろこんだ?」
カシュー「ノエル様嬉しい?」
クロエ「(人差し指を立て、きっぱりと)貴方達、ショコラ様は食べ物ではありません、もう2度とノエル様へ近づけないように」
レーズン「はぁーい」
カシュー「はぁーい」
クロエ「…全く。…もう少ししたら朝になりますから、そうしたら朝食の準備ですよ、分かりましたか」
レーズン「わかりましたー」
カシュー「わかったのですー」
クロエ「では、もう行きなさい」
レーズン「はぁーい」
カシュー「いくのー」
クロエ「…やれやれ…」
レーズン「お客さんが来ると楽しいねー」
カシュー「うんうん、楽しいねー! ふふふふっ」

双子の笑い声と、去っていく足音と共に終了。

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