有能なセールスマン



キャラ表

(性別表記の無いキャラクターは、性別不問)

・アナウンサー 

・解説者 

・客A(♂) 

・客B(♀) 

・営業マン佐木田(♂) 


以上五名。


*備考*
佐木田は、早口の限界にチャレンジするつもりで。



--------------------以下本文

有能なセールスマン。



【SE:ニュースの話題切り替えのような音楽或いは効果音(じゃじゃん、とか)】

アナウンサー「続きましては、「HCS」に関する話題です。政府によって開発された『対人間用心理公開装置』が実地されて、半年が経ちました。この装置は、国内に居る全ての人間の突発的な思考、極端な思想を、周囲の人間に知らせるというものです」
解説者「例えばこれから殺人事件を起こそうとしている容疑者の、日常生活ではありえない興奮、緊張、そして殺意。それらが周囲の人間、或いは一定の間隔に設置された受信機に伝わり、近くの公的機関へと通報される、というものです」
アナウンサー「現在は、通報された人物に対する対応は厳重注意が主で、あまりにも頻繁であった場合は、一般的事件として取調べの対象になる程度ですが、今国会では、危険な感情を高ぶらせただけで裁きの対象とすべきではないか、という意見が出ており、議論を招いています」

【SE:テレビを消す音】

顧客A「…はぁ……(ため息を3度ほどくり返す)」

A「…落ち着かない…」

A「私の名前は一般市民A、HCSという、心を解析され晒される装置の実地以降、日に日に増して行くストレスと恐怖に、気が狂いそうになっています。」
A「確かに私は善良な一般市民である為、今まで一度も心の解析で通報を受けたことはありませんが、常に誰かに見られている生活には本当に頭が参ってしまいます。特に、心の安らぎであった家の中や家族までもが緊張の対象になってしまった事が、大きなストレス要因なのです」

A「…はぁ…落ち着かない。私はとても困っている…」

【SE:呼び鈴(ぴんぽーん)】

A「…はて、こんな時間に誰だろう」

【SE:ドアを開ける音】

A「はい、どちらさまでしょう」
営業マン「どうもこんにちは、私ゼロゼロエイトカンパニーのSOU部門に勤めております、佐木田(さぎだ)と申します」
A「ぜ、ぜろぜろ・・・?」
佐木田「私共ゼロゼロエイトカンパニーは、人間の心を対象に、皆さまの健康と安らぎを支える機械を発明し、皆さま一個人のお宅に直接お伺いしまして、集団ではなく個人を相手に根強い信頼関係を(早口で)」
A「あ、あの、何もいらないです、そ、それじゃ(扉を閉めようとする)」
【SE:ドアノブを回す音】

佐木田「おーまちください、おきゃくさまー」

佐木田「HCSで、お困りではありませんか?(にやっ」

A「…え」
佐木田「確かに政府の考え出したHCSは大変素晴らしいものです。泥棒に入ろう、空き巣をしてやろう、というヨコシマな考えさえ暴き出し、周囲の住民に通報、犯罪の撲滅に至り、地域社会の活性、結束につながる社会現象を引き起こそうと、している、が! 問題はどこでしょう、そう、人々が受けるストレスへの一切の配慮がないという点です。心の全てを暴き出されないからプライバシーの侵害にならない、なんてそんなのは絶対におかしい、机上の空論もよいとこよいとこ、一般市民への配慮を考えない、お役人らしい事務的な法律だとは思いませんか!(早口」
A「…え、は、…はい(戸惑いながらも、若干賛同している」

佐木田「我々ゼロゼロエイトカンパニーのSOU部門は、実は対HCS部門でもあるのです、HCS制度で心に深い負担を背負ってしまった皆さんの、心のケアを第一に考える、そんな部署なのです(にこやかに」
A「と、いうと…?(興味を持つ」

佐木田「実は我がゼロゼロエイトカンパニー、アンチHCS装置を開発致しました。こちらを体に埋め込むことによって、貴方はHCS圏外、となるのです。」
A「な、なんですってー」


【SE:スリッパで廊下を歩く音】
【SE:椅子に腰掛ける音】
【SE:お茶を入れる水音】

佐木田「や、これはどうもどうもご丁寧に」
A「いえいえ。…外で聞かれてはよくない話でしょうから」
佐木田「まったくその通り、お客様よく分かってらっしゃる」
A「本当にここ最近は夜も眠れていないのです。医者に行っても、こんな事は大いなる偉業のうちのちょっとした副作用なんだから我慢しなさい、と言われ…」
佐木田「医者や公的機関の人間は、皆洗脳されてると考えた方がいいでしょう(お茶をすすり)…あちっ…。…もはや、図書館のお姉さんですらお役人に洗脳されている時代です。貴方の意見を聞き届けてくれる人を探すのは、本当に大変な事だと思われます」
A「…そうですか…」
佐木田「ともなれば、貴方は1人で戦い抜くしかない。けれど、敵に自分の情報を垂れ流している状況で、どうやって戦えましょう。…まずは、情報の漏洩を防ぐ。…それが、先決ではありませんか」
A「まったくその通りです。…しかし…」
佐木田「なんでしょう」
A「バレ…ませんかね?(佐木田の顔色を伺い」

佐木田「ばれませんとも!」

佐木田「見たところ貴方様は、とても善良な一般市民に見受けられます。そのような方が、潜在意識の中で実は大量殺戮を企てているかもしれない、なんて考えるほうが無粋なのです。いえ、失礼なのです。貴方は何も事件を起こさない。なのに酷い監視にあっている。憤るべきなのです。大丈夫、貴方は監視なんてされていなくても、何も起こさないのです。という事は、HCSは貴方にとって無意味なのです。貴方は、監視の目があろうと無かろうと、普通の生活を送るだけで何の問題もないのです(早口」
A「は、…はい」

佐木田「(にこやかに微笑み)貴方様のような、監視の必要のないごく善良な方だからこそ、貴方だからこそ、お勧めしています。私は貴方に、武装解除を申し出ているのです。こんな事、他の方にホイホイと簡単にお勧めしたりしません。きっと貴方ならば、HCSが無くても何の問題もないだろう、何故ならば善良な方だろうから、と、私からの信頼を込めて、貴方だけに、お伝えしていることなのですよ(牧師の説教の様な微笑みで」

A「私、だけに…」
佐木田「ええ」
A「私、ならば、監視なんて…いらない、と…そう、思って…」
佐木田「まったく、無用でしょう(諭すようににこやかに」
A「…あ、…そう、ですよね。…そうですよね。……では、購入をします」
佐木田「ありがとうございます。…当然ですが、この事は内密に、どうかご家族にも…」
A「ええ、分かっています」
佐木田「では、こちらの書類に判子を…」
A「はい」

佐木田「ありがとうございます。…装置の埋め込み自体は、こちらの注射器を用いて、今すぐ行えますよ」
A「すぐにお願いします」
佐木田「分かりました、ありがとうございます。…それでは、左腕の袖を巻くって…そうそう………」
A「…っ…こ、これでいいんですか?」
佐木田「ええ、これで埋め込みは完了です。貴方様は今、HCSの圏外でございます」
A「…あぁ…よかった…」

【SE:スリッパで廊下を歩く音】
佐木田「お邪魔致しました、また後日アフターケアにうかがいます。自由な日々をご満喫ください、それでは、ごーきげんようっ」
【SE:扉が閉まる音】

A「だいぶ高い買い物ではあったが、安全な生活のためならば、これは必要経費だと思うべきだろう。」

A「…ああ、これからは、自由な日々か…!(晴れ晴れと」


【SE:呼び鈴(ぴんぽーん)】

顧客B「はーい」
佐木田「こんにちは、ゼロゼロエイトカンパニーの」
B「あら、佐木田さん! こんにちは」
佐木田「アフターケアに参りました。…最近は、如何ですか?」
B「それがもう、すっかり安心安眠……に、ならなくて…」
佐木田「と、いうと?」
B「よく考えたら、佐木田さんが沢山の人にこれを売っているということは、他の人も、私の周りの人々も、ご近所さんとか、職場の人とか、みんなHCSを解除している可能性があるのでしょう?」
佐木田「そうですね、中々否定はできません」
B「…って事は、周りで何か恐ろしいことを企んでる人が居たとしても、それは通報されないのよね」
佐木田「まったくです。世間は恐ろしい」
B「やっぱり…ど、どうしましょう…安心して眠れないわ…」
佐木田「どうしたものでしょうね…」

佐木田「…ああ」

佐木田「よいことを思いつきました。一度、HCS解除装置を外されてみては如何でしょう」
B「HCSを圏外にしたのに…また、戻すんですか?」
佐木田「ええ、そうです」
B「でも、そんな事をして何が…」

佐木田「貴方様がもし何か恐ろしいことに直面した場合、…HCSが活性化していれば、貴方の緊張と恐怖を、周りが感知してくれるのですよ(にこやか」


B「な、なるほど…!」
佐木田「ワンランク上のお客様による、HCSシステムの新しい使い道ですね。…加害者を通報するのではなく、被害者を割り出すという」
B「す、素敵です…」
佐木田「では、さっそく。HCS解除装置を無効にする装置のご契約を…」


佐木田「それでは失礼致します、またアフターケアにお伺いいたします(にこやかに」
【SE:扉が閉まる音】

end





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